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2008年11月21日
次回更新日 11月25日 【毎週火曜日更新】
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今週のお客様 オー グー ドゥ ジュール 代表取締役社長 岡部一己さん

 
専門学校卒業後、「マキシム・ド・パリ」で働き、厳しい環境の中でサービスの基礎を学んだ岡部一己さん。現在は現役の一流ギャルソンであり、5店舗を展開する経営者でもある。彼のお話からは、お客様を満足させるために必要なのは技術や経験だけではなく、まず“こころ”であり、生き方そのものなのだと改めて感じさせる。

“シルバー拭き”にも店員の心が表れる
私は調理の専門学校を卒業後、フレンチの老舗「マキシム・ド・パリ」で働きましたが、最初は直接お客様に接する機会はなく、サービススタッフのアシスタントに徹していました。

具体的には、ナイフやフォークなどのシルバーを一日に1000本拭き、さまざまな種類のお皿を一日に600枚も拭く、という仕事です。最近でこそフレンチ界も少しは変化してきたかもしれませんが、当時はまるで人格がないように「はい」としか答えられない、厳しい環境でした。

しかしこの厳しさがあったからこそ今があるのだと思っています。「地獄を見てない人は天国も見れない」とおっしゃったシェフもいたようですが、飲食業界で生きていくなら、一度は厳しい環境に身をおくことがとても大切だと思います。

さて、その頃、上の人に私は次のようなことを言われました。
「お前にとってそのフォークは、1000本の中の一本かもしれないけれど、お客様にとっては、たった1本のフォークなんだ。わかるか?」

もしかしたら私はその時、つまらない顔でもしていたのかもしれませんね。膨大な数のシルバーを拭く仕事は、終わりの見えない単調な作業。チベーションを高く保つことはなかなか難しいものです。しかしこの言葉で目が覚めました。お客様の一番大切な時間をサポートする脇役(シルバー)を、大切に、そして完璧にしなくてはいけないと思い直したのです。

裏方の仕事とはいえ、そういうスタッフの思いはお客様に自然と伝わるものなのだと、その時に思いました。「…をしてあげたい」と「…をしなくてはいけない」という気持ちには大きな違いがあります。その違いがシルバーひとつにも表れてしまうものなのです。

休日は“いいもの・いい人・いい店”に触れて遊ぶべき
さて、ギャルソンとして経験を積んで初めて支配人という立場になってからも、「失敗をしたな」と感じたことが何度かあります。例えば、パーティーが終わり帰宅されるお客様に「本日はいかがでしたか?」と確認したら「ワインが足りなかった。だって、開けてくれないんだもん」と言われたことがありました。ショックでした…。

ワインを次々に開けてしまってお客様に嫌がられることもありますが、逆にワインをきちんと勧めたつもりでも、そのお客様には足りなくて残念がられることもあるのです。そのさじ加減はなかなか難しいものです。例えば接待や会食で、他のお客様の手前、いつもより贅沢にワインを開けたかったというお客様もいらっしゃるのです。

また先日は、私の手の結婚指輪を見てお客様がこうおっしゃられました。
「なんで指輪をしているの?グラスにキズがつくでしょ?」――こう感じるお客様もいらっしゃるのだと少々驚きました。レストランなどでは、結婚指輪は一種のステイタスというか、お客様に安心感を与える要素になりうるのでは、と私は考えていたのです。しかしお客様のおっしゃることもごもっともなので、それ以来、指輪は外して店に立つようになりました。

このような失敗は今後のためにむしろ経験した方がよいのだ、と私は前向きに考えています。そしてさらに接客力を高めるために、休日などはできるだけ「いいもの・いい人・いい店」に触れるようにしています。

なぜならレストランは遊び慣れた方が来られる場所です。彼らをもてなす私たちが“遊び”を知らなければ、彼らを満足させることは難しいと思うのです。美術館や素敵な和食店など、“囲の中の蛙”にならないように休日はできるだけ“いい遊び”をするように心がけています。

最後に、お客様との会話において、一番大切なことは何だと思いますか?私はスタッフが“聞き手に徹する”ことが一番大切だと思います。お客様はしゃべりたくて店にやってくるものです。お客様の心を掴もうと、積極的に声をかけて話そうとする人がたまにいますが、これは大きな勘違い。お客様が楽しみながら話しができるように、スタッフは相槌をうったり、感心したり、驚いたりする…という反応やしぐさが大切なのだと思います。

プロフィール
岡部一己さん
1970年生まれ。京都府出身。辻学園・調理技術専門学校を卒業後、銀座の老舗フランス料理店「マキシム・ド・パリ」入社。「レストラン・ペリニィヨン」「京橋ドンピエール」でのサービス担当を経て、2000年に開店の「ル・ブルギニオン」支配人に就任。人気シェフ、菊地美升氏とのコンビで東京のレストランシーンに新風を吹き込む。その後、2002年に独立してレストラン「オー グー ドゥ ジュール」を麹町に開店。現在、同グループの代表およびギャルソンとして5店舗の経営に携わる。

オー グー ドゥ ジュール
http://www.augoutdujour-group.com/au/index.html

岡部さんの著書
サービスの教科書
発行 洋泉社
2007年07月 発行
価格 1,575円(税込)

目指すのは、シルクのようなおもてなし―。圧倒的な高評価・リピート率を誇るイタリアン/フレンチ支配人による珠玉のレストランサービス論。お客様になにを求められているのか?どうすれば、喜んでもらえるのか?
サービスの教科書

バックナンバー
第11回 居酒家土間土間 亀戸店 光岡雅彦さん
第9回、第10回 リゴレット ワイン アンド バー 戸田肇さん
第8回 ババ・ガンプ・シュリンプ 東京 上田大さん
第7回 オー グー ドゥ ジュール 岡部一己さん
第6回 (有)ゼネラルフード事業スタジオ 石川幸千代さん
第5回 藤田リゾート開発(株) 塩島賢次さん
第4回 神田 雲林 金澤康恵さん
第3回 (株)ジャパンフードシステム 武長栄治さん
第2回 竈 新宿本店 清水博丈さん
第1回 ワインアンドワインカルチャー(株) 田辺由美さん