今回はこれまでの取材の中で、一番ホスピタリティを感じた店「竈」さんをご紹介します。ちなみに同店は、フレンチとかではなく、歓楽街にある庶民的なラーメン店です。
ある日、「竈」さんに取材するために、午後2時すぎに店を訪れました。アイドルタイムにもかかわらず、お客は途絶えることなく入店されています。店主の清水さんは満面の笑みで私たちを迎え入れ、席に案内するとすぐにお茶を運んでくれました。
さっそく取材をスタートさせると、私があらかじめ用意した質問事項の紙を清水さんが取り出しました。私は取材前に質問内容を箇条書きにして取材対応者にお渡ししているのですが、ほとんどの方は取材にはこういう紙を持参しません。そんな中、質問の紙を取り出して、“どんな質問だったか”と再確認されたご主人の姿勢に、まず感動したのです。
一番目の質問をするとさらに感動しました。ご主人はなんと、すべての質問にきちんとご自分で回答をまとめておいてくれていたのです。
「お忙しいのに、あらかじめ回答をきちんと考えていただいたようで、ありがとうございます」とお礼を申し上げると、ご主人はその紙を私に渡してくれました。そして「どうぞ持ち帰ってください」とおっしゃったのです!
よく見ると、質問の紙の回答部分には、手書きではなくパソコンなどで入力してわざわざ作成したらしい文字が並んでいました。しかも見やすいように青字・太字で!つまり私が持ち帰って、後で執筆する時に一番役に立つ方法で、回答が用意されていたのです。店主の気遣いに胸が熱くなり、出る言葉もありませんでした。何事にも真剣に取り組む、とはまさにこういうこと。
ご存知の通り、ラーメン店では早朝からスープを仕込んだり…と非常にハードなスケジュールをこなしている方がほとんどです。そんな中、口頭で伝えれば終わってしまう取材を、わざわざ時間をさいて回答メモを作成されていたのには、本当に脱帽です。
その後、さらに取材を進めると、清水さんは「あ、ちょっとすみません」と席を立たれました。営業中でお客様がいらっしゃるにもかかわらず、BGMのボリュームを私たちのために少し下げてくれたのです。居酒屋などでは特に、BGMが大きすぎて話がうまく聞き取れず、取材に苦労することが多いのですが、清水さんは自らそれに気づき、すぐに対応してくれました。
取材が終わるとすばやく「デザートをもってきて」とバイトさんに一言。ラーメン店でデザートを出してくれること自体珍しいですが、そのタイミングが秀逸。仕事後の糖分摂取ほどリラックスをもたらすものはありません。同行したカメラマンや編集者も、デザートをほおばりながら一瞬だけ仕事から開放されたのでした。
私は10年間飲食ライターをしていますが、これまでの取材で質問の回答をきちんとご用意され、取材時に持参してくれたのは2人の経営者のみ。さらに渡せるように手書きでなく、パソコンなどで文字を打ち込んでご用意されたのは「竈」さんだけです。そして不思議とそういう店はお客に支持され、繁盛しているのです。 |
|