トップ > がちんこ対談第4回 春秋 杉本貴志社長VSキイストン細見昇市社長
第2回対談 第3回対談


春秋 杉本貴志 方手間ではない。人生の一部としての飲食道

細見:以前、当サイトにご登場いただいた(http://in-shoku.info/news/shunju.htm)ときに、飲食をすることそれ自体が、コミュニケーションツールである、ということをお話されていましたが、まずは、そのことからお聞きします。

『洋朊をチョイスして着ることが、自己アピールであるように、飲食をする場を選ぶのも自己表現である』というお考えは、どういった経緯でそうなったのでしょうか。


杉本:
もともとデザインをやりたいと思っていたんですが、学生の頃は工学科に在籍して金属工芸を勉強していたんです。

デザインは学校を卒業してから学ぼうと思って、卒業後ヨーロッパに行きました。あちこち歩きながら、自分のデザイン観のようなものをつくっていきましてね。

そんな中で、ヨーロッパと日本の生活の違いを感じたんです。

その一例として、ヨーロッパの外食というのはレストランに行って、ネクタイなどをしてきちんと食事するという文化がありますが、一方当時の日本の食文化というのは、好きな格好で、好きなものを注文して、隣のヤツと気軽にしゃべれて、という楽しみがありましてね。

そこでは一切デザイン化はされていない。そんな中でデザインとは何なのかを考えたんです。

つまり、コミュニケーションの中にデザインがあるのではないか、と。


細見:杉本先生が若いときに新宿ゴールデン街に足繁くかよっていた、という話を伺いましたが。


杉本:(笑)やっぱりね、デザインというものはシャープで、かっこいいものだと思っていましたし、そこを目指していましたけど、結局、モダニズムの極地のようなものは体質的に合わないんですね。

食事でも、コースの料理とかきちっと食べるよりも煮込みや焼き鳥、田舎料理なんかの方がやっぱり旨い(笑)。

人間にとって近い距離にあるデザインといいますかね。そんなことをやりたいな、というのは思っていました。

がちんこ対談第4回 春秋 杉本貴志社長VSキイストン細見昇市社長

細見:杉本先生のおつくりになられた店舗デザインはあたたかさというか、お洒落なんだけどそれだけでは表現しきれないぬくもりのようなものを感じますよ。遊び心もありますしね。

杉本:そう言っていただけると大変嬉しいです。それを目指していますから。

細見:デザインを模索していった杉本先生が、専門外である飲食店を経営することになり、経営もそうでしょうが、人についてもいろいろと大変だったのではないですか?


杉本:逆にね、専門家じゃないから、続けるためにいろいろと考えたんです。

今も若干そうですが、当時は飲食店ってみんなどんぶり勘定だったから、給料もシステム化されていなかった。

言ってみれば、経営者とそのスタッフの関係性で給与が決まっていましたから。

だからうちの設計会社の給与システムを導入したんです。それがうまく合ったんですね。

給与査定を僕じゃなくて幹部にやってもらったんです。

がちんこ対談第4回 春秋 杉本貴志社長VSキイストン細見昇市社長

細見:
給与をシステム化したらどう変わってきましたか?


杉本:
ひとつは、自分らで査定することによって売上げを意識するようになりますよね。

それと、自分が頑張る場所を確保するためには店を増やさなくてはならないので、店長になりたいというやつが一生懸命になります。


だから、僕としても独立を強く奨励してた時期がありまして、飲食店では珍しいのですが、退職金制度を設け、そのお金を独立資金にあててくれ、ということにしました。

がちんこ対談第4回 春秋 杉本貴志社長VSキイストン細見昇市社長

細見:
システム的な部分でなく、スタッフもメンタリティに関わるような施策みたいなものは行いましたか?今、よく言われるモチベーションというものですが。


杉本:今は大きくなってなかなかできませんが、当時2~3軒の時は、スタッフを連れて月に1~2回飲みに行ってました。

休みの日にも、研究会と称して、いろんな店に行ったな。当時の春秋には閉じこもってるヤツが多かったんで、僕の考え方を話しました。

がちんこ対談第4回 春秋 杉本貴志社長VSキイストン細見昇市社長

細見:
どんなことをお話になられたんです?


杉本:
一番言ったのは、客や料理に対する考え方。料理人ってのは閉鎖的なんです。

自分が20~30代で教わった事で、一生食っていこうとするからレパートリーを拡げない。寿司屋も、天麩羅屋も、懐石料理もそうですよね。専門を極めようとするあまり、外を見ない傾向がありますよ。

それが、多分料理の世界の一番大きな問題。僕は、店は総合だと思うんです。いろいろな経験をしてきたスタッフたちや、いろいろな情報が集まって、店となる。

今までの料理の考え方の垣根をとっぱらってやろうと思ったんです。だから、コックもホールに出なさいと。お客さんと話しをしたり、サービスを経験したり。バーテンをやったり。

いろんな事を経験しなさい、と。そのような話をしましたね。

がちんこ対談第4回 春秋 杉本貴志社長VSキイストン細見昇市社長

細見:
教育についてはどのようなお考えをお持ちですか?


杉本:
仕事に関しては一切手加減をしない、という考えがあります。

そういうことは全身全霊でやらないと伝わらないんです。怒るときは相当怒ります。相手に受け継いでもらおうと思ったら、手加減できませんよね。

だから、インテリアデザインの方ですが、この業界で成功している人たちで、うちの事務所の出身者というのがたくさんいるんです。それだけ厳しくやってますから。

がちんこ対談第4回 春秋 杉本貴志社長VSキイストン細見昇市社長

細見:飲食業界というのも、インテリアデザインの世界と似たようなところがありまして、やはり独立というのがキーワードになってくると思うのです。それもできればチェーン店ではなく、独自の世界を築きたい。そんな風に多くの人が考えていると思うのですが、インテリアデザインの世界でポジションを確立された杉本先生から若い世代の方にメッセージをいただけますか。


杉本:飲食というのを専門外から携わらせてもらって20年立ちますが、飲食っていうのははっきり言えば誰にでもできる。

でも逆に誰もできるということは、日本で一番競争が激しい業界なんです。時代の流れも受けやすいですし。10年前に世に認められた業界の人でも今残っている人はごくわずか。そのくらい厳しいんです。

いかに自分の方法論を確立するか。それは自分に適した個性のようなもので。これを作らないと、太刀打ちできない。自分の欲求を、一生じゃなくても、一定期間持ち続けることが大切なんじゃないかと僕は思いますよ。

 1945年 東京生まれ。
 1968年 東京藝術大学 美術学部卒業
 1973年 株式会社スーパーポテト設立代表取締役
http://www.superpotato.jp/
 1986年 株式会社春秋(http://www.shunju.com/)設立 
代表取締役
 1992年 武蔵野美術大学 空間演出デザイン学科 教授
 2005年 春秋の集大成『春秋ツギハギ』オープン
 ◆受賞暦
84年毎日デザイン賞受賞、85年インテリア設計協会賞受賞、85年毎日デザイン賞受賞、Restaurant Design of the Year受賞
 
 ◆主なインテリアデザイン
春秋、ジパング、響、分とく山、無印良品、グランドハイアット東京、SHUN KAN、グランドハイアットシンガポール“Mezza9”、アイランド・シャングリラ・ラ香港“Cafe Too”、ZUMA(ロンドン)、パークハイアットソウル...etc

Click here! Click to see