1968年東京生まれ。
1991年「人を喜ばせる仕事をしたい」と思い、東京・丸の内の「パレスホテル」に就職。現場を2年間、セールスを7年間、9年間を過ごす。2000年、自分の更なるスキルUPを図るべく中国飯店に転職。スタッフと共にお客様に最大限の満足を提供できるよう、些細な事でも全てにおいて気を抜かない接客を求め続ける。2007年11月ミシュランにて星を獲得。
 

二胡と箏の生演奏を聞きながらオールドチャイナを感じていただける富麗華。多数の個室に加え100名様着席可能の大広間もあり、あらゆるシーンにも対応。
主菜・焼き物や点心等、それぞれの専門料理人腕を振るう富麗華の高級中華料理は、MICHELIN GUIDE東京 2008でも星を獲得している。

東京都港区東麻布3-7-5
中国飯店ホームページ

 
 

  もともと私は、“人を快適にする仕事、人を喜ばせる仕事”がしたいと思っていました。そこで最初は東京・丸の内の「パレスホテル」に勤務したのです。ホテルで客室係やベルボーイなど、表舞台を下から支える仕事をひと通り経験しました。そして次第に営業(セールス)の仕事を目指すようになっていきました。
  当時の私にとって、セールスの仕事は自分ひとりでお客様の滞在を一手に引き受けるような重要な仕事に思えました。これまで経験したホテル内の仕事は、ホテルに来てくれた、つまりすでにうちを選んでくれたお客様に対して、どのように快適に過ごしてもらうかという点で心を砕く仕事。しかしセールスの仕事は、競合他社もある中でどのようにしたらうちを選択してくれるか、というところからお客様との関係は始まる。つまりそれだけ難易度の高い仕事。ハードルの高い方が、なんか人間って、燃えるものでしょ?(笑)
  結局、7年間もセールスの仕事にのめり込んでいました。
  セールスの仕事は、まず各人の担当業界が決められ、四季報を見ながら自分の担当企業に照準をあてます。それらの営業先の中にはもちろん新規にアプローチする企業もあって、コネも縁もない企業の担当者様に何度も会い、時間をかけて根回しすることもしばしばです。そしてようやく宴会や宿泊の予約が獲得できる。その時の喜びと言ったら、欣喜雀躍って感じですよ(笑)。何ものにも代えられないですね、あの満足感は。
  ホテルでセールスを経験した7年間のうち、3年間は杜の都・仙台で過ごしました。東北の大手企業などに、スポーツ観戦やディナーショーとセットした宿泊プランを提案したりしました。当時の私は所長という肩書きで、多くの決裁権が委ねられていたので、思う存分トライ&エラーを繰り返すこともできました。非常に有意義な時間を過ごしました。
  24歳から、このようにセールスの仕事にいそしんでおりましたが、31歳の時に転機が訪れました。「中国飯店 富麗華」の総支配人にならないかと、昔から知り合いだった現在の社長から誘われたのです。社長は現場からのたたき上げの人で、当時ですでに約25年もの飲食経験をもっていました。新店への想いを熱く語る彼の口からは、新しいアイディアが蕩蕩とあふれ出てくるのでした。

  そんな社長に心を動かされながら、私は自分なりに、転職を“自分への新たな挑戦”と位置づけていました。楽しい・面白いだけで到達できる目標はたかが知れている、自分を高めるためには新たな苦行も必要だ――頭の片隅でこんなことを考えていたのです。
  また、ホテル業と飲食業は、似て非なるものです。ホテルはお客様に快適に過ごしてもらうための環境づくりが主な仕事ですが、飲食業はそれだけでは終わらない。もっとお客様の心の中に入り込んでいって、ふれ合う仕事だと思います。例えばお客様とのコミュニケーションでは、お客様に話題をふったり、ふられたりし、お客様を持ち上げたり、たまに私が落とされたり(笑)。このような1~2時間の軽妙な食事タイムがまさにエンターテイメント。味だけでなく、店で過ごした時間がお客様の記憶に残り、それが店の価値につながるのです。飲食業の面白い点がここだと思い、挑戦してみたくなったのです。
  毎日のように「素敵だな」と感じるお客様と出会います。そういった方々は何も美人やハンサムなのではなく、全身に魅力のオーラが満ちているのです。人前で動揺することもなく、自分のスタイルがあって余裕があり、誰に対してもきちんと視線を合わせて対話する――おそらく、これまで七転八倒された経験があるからこそ、自然に魅力が外にあふれ出ているのだと思います。自分もそうありたいと強く思わずにはいられません。
  例えばこんなお客様もいらっしゃいます。世界的にも有名な大企業の社長様(当時)なのですが、実に誠実な方で、どんなことにも真剣に言葉を返してくれます。ある日、メールのやりとりをしていたら「紹興酒について、もしよかったら詳しく教えてくれませんか」と謙虚な文面が送られてきました。社会的地位とは関係なく、「自分は門外漢だから、知っている人に教えてもらう」という素直な姿勢には感心しました。
  だからスタッフにはいつもこんなふうに話しています。「当店には芸能人や要人もいらっしゃいますが、一般の方々も含め、みなさんが同じようにテーブルに座られます。そしてすべての方々がおのおの満足して帰られます。もしかしたら仕事が厳しくて大変だと感じる時もあるかもしれません。しかし実際、それにより生み出されている価値はどうですか?お客様の笑顔を見てください」と。
  飲食業は本当にすばらしい仕事です。仕事への誇りを持ちながら、その価値を最大限に高める努力をこれからも続けたいと思います。